さて、ここに、昭和十三年に出版された、「かつおぶし」という本があります。今の世代の人には、ちょっと読みにくい難しい漢字がいっぱい並んだ本なんですが、その本の中に、煮出汁の取り方という項があるんですが、少し紹介させていただきましょう。
煮出汁の取り方
鰹節を用いぬ料理はない、魚、鳥、獣肉でも汁物や吸物は鰹節の煮出汁を用いた料理でなければ本当に旨い料理はできない。
そこでまず、煮出汁の取り方から述べねばならぬが、これは鰹節の種類、調理人の様式、味に対する好みの相違等で、幾通りの方法もあって一概に述べる訳にはいかない。
しかし、難しく考えずに普通一般 に用いられている方法と言えば、鰹節を成るべく薄く削り、分量はまず水一升に二十匁(もんめ)見当、鍋の湯が沸騰したところへ投じ、もう一度煮立ったら直 ぐ火を止めて漉す方法が一つ。
また、水から入れる法もある。その場合には沸騰する前に鍋の中が一面 に泡立ち、湯気の盛んに立ち昇る程度として火を止める。
いずれにしても長く煮ては癖が出るから、一番煮出はサッと引いて吸物用に用い、あとへ約半分の水を 加えて煮立たせたのを、二番煮出しとして煮物などへ混用するのが定式である。
そして清汁用には、なるべく淡赭色のところを削り、血合いのところは味噌汁な どの場合に用いる。以上極く大雑把なところであるが、本当の煮出汁の取り方はそんな簡単なものではないし、料理人の秘伝として、発表されぬ ものも多いと思う。
以前は大阪地方の一流料理店では鰹節は板前に削らさず、必ず店の主人が削ったというから、煮出汁をとる前の削り方にも秘法があるものと思う。東京や大阪で上等の鰹節を削って売り出したことがあるが、削って置いた物が風味を破壊することは素人にも判ることで、専門的には一本の鰹節を三通 りに削り分けねばならぬと言われている。秘伝や専門的なことは別としても、鰹節はやはり使用する直前に削るのが本当である。
さて、いかがでしょうか?
出汁の取り方に対する見方が変わりましたか?
昔の食生活の豊かさが良く判ったのではないでしょうか?
現代は、いろんな料理を広く浅く手軽に味わう代わりに、鰹節から取る煮出汁ひとつとっても、深くこだわるということが無くなってしまったようですね。
これはなにも、皆さんのことだけではなく、私達自身も、知らないうちに、そういう食生活を送るようになってしまっている訳です。
現代の社会で生きてゆく中で、鰹節の製造について、また、出汁の取り方についても、どうしたら本当に豊かな食生活を送っていくことができるのか、皆さんと一緒に、考えていきたいですね。
そこで、まずは、煮出汁の取り方から、考えていきたいと思います。
ただし、ここでは、あえて基本だしという表現をしているのですが、本当の意味の基本だしとは違うということは、了承してくださいね。なぜなら本当の基本だしと言ってしまったら、完全に昔ながらの製法で作られた本枯節(カビ付け)を御自分で 削って出汁を取るということになってしまいますから。
いきなり、完璧を求めるのはやめて、ちょっとずつ毎日の食生活を豊かにしていくというスタンスで、考えていきたいと思います。
では、一回目は、私ども「やまじゅう」が普段やっているやり方の基本的なだしの取り方を御紹介します。
よろしければ、是非一度お試しください。
そして、できれば、皆さんの御家庭でお勧めする出汁の取り方を教えていただきたいたいと思います。
私ども自身の勉強にもなりますし、また、このコーナーで是非紹介させていただきたいと思いますので。
やまじゅう式基本だしのとり方を紹介します。
1. 昆布としいたけは、30分くらい水につけておく。
2. 1のなべを火にかけ、沸騰したら、かつおぶしけずりを入れ、中火で7~8分煮る。この時、昆布は取り出した方が、昆布に旨味が吸い取られない。
3. さらしで漉す。
この方法の特徴ですが、まず、かつお節の厚削りをつかっていることです。あと椎茸はお好みでお使いください。煮物等の料理に使う場合でしたら、厚削りは出さずに、そのまま材料と一緒に煮込んで、仕上がったら、取り出すという方法でも、美味しい煮物が作れますよ。
基本だしでもりそばのつけ汁の作り方を紹介します。
全部の材料をなべに入れて、火にかけ、味をみる。
『だし巻き卵』 お弁当におつまみに大活躍!!!
1. 卵と調味料を合わせてこす。
ボールに卵を6個割り入れ、箸で軽くといたところへ砂糖(小さじ2分の1)・薄口しょうゆ(小さじ2分の1)・塩(小さじ3分の1)と、さめただし汁(大さじ4~5杯)を入れ、泡立てないように混ぜてこす。
2. 卵をお玉一杯ずつ焼く。
卵焼き器を中火にかけて熱し、サラダ油を含ませたカット綿でまんべんなく油をひく。
お玉1杯の卵液を流し入れ、半熟程度に焼けてきたら、卵の向こう側を箸ではがして 手前に三つ折にし、空いた部分にまたサラダ油をひく。
巻いた卵を向こうへ押しやり、手前の部分に同じように油をひき、お玉 1杯の卵液を流し入れる。これを繰り返して厚くしていく。
鰹節職人の思いこみ
“美味しい鰹の見分け方”
鮮度が良くて脂がのった鰹が刺身で食べると美味しいのは、皆さんもご存知と思います。では、どんな鰹を選べば良いのか、日々の仕事の中で、こんなことがわかりました。
1. まず鮮度が良い鰹は、皮に艶があります。(腹のしま模様がくっきりしている )
そして、腹を指で押さえると案外硬いものです。(内臓が痛んでいないため)
2. 次に脂ののった鰹は、形が丸っこい。(腹のしま模様の間隔が広い) 人間で言うと太っているということです。
ですから、1・2 を兼ね備えたものを買ってみてください。刺身で食べればきっと美味しいですよ。
では何故、同じ鰹で脂の有る無しがあるのでしょう。
基本的には、寒い国の人は太っている人が多く、反対に暑い国の人は痩せている人が多いと思います。
鰹もいっしょで、水温の低い日本近海で採れるものは肥えていて脂があります。 逆に、水温の高い赤道辺りで採れる鰹は痩せていて脂がありません。
ちなみに、鰹節の原料になる鰹は、赤道付近で採った脂の少ないものを冷凍して持ってきます。 但し、水深によって水温も違いますので、同じ漁場で採った鰹でも多少違いますけどね。
“美味しい鰹節の見分け方”
鰹 節は、脂があると花かつぶしに削った時に粉になってしまいます。
そこで、「あまり脂が無いほうが良い鰹節なんですよ。」と言うと、「脂の有無はどうして見分けるのですか?」と聞かれます。
そこできょうは、鰹節の見分け方を教えます。
鰹節の皮の面を上にして持ってみて下さい。
脂の有る(多い)節は皮の表面にしわがありますが、逆に脂の無い(少ない)節は皮の表面がピンと張っています。
これから本節を買う時には、しわの少ないものを選べば、綺麗に花かつおに削れると思いますよ。 但し、脂の多い節に比べて味は薄いかもしれませんよ。